ダルトン、投資先企業の経営陣と取締役に書簡を送付

ダルトン・インベストメンツは、投資先企業の経営陣と取締役に対し、弊社が投資先企業のコーポレート・ガバナンスにおいて期待する3つの事項((1)適切な資本配分、(2)取締役会・経営陣と株主の利益共有強化、(3)多様性と独立性の高い取締役会)に関して、以下のオープンレターを送付しました。

親愛なる投資先のご経営陣、取締役各位、

今年も残すところ1か月となりました。継続するサプライチェーンの混乱や物価・金利・通貨価値の目まぐるしい影響がご経営に与えた影響は事業内容や企業によって異なりますが、共通して言えるのは例年以上に皆さまにとっても絶え間なく難しい経営判断を迫られる1年だったのではないでしょうか。そんな中、私共が心強く感じているのは、皆さまの事業の偉大なレジリエンスを目の当たりにできた事です。操業の継続、調達手段の見直し、価格改定、コスト削減といった機動的な対応により事業収益を確保されたことに大変感銘を受けました。資本市場も世界的に大変な混乱に見舞われた1年でしたが、おかげさまで私共はほとんど投資判断を変える必要を感じることなく、結果、年初と現時点でほとんど投資先の顔ぶれに変更はありません。また、市場の混乱を企業価値向上の機会ととらえ、積極的な自己株買いを行っていただいた皆様の勇気と行動力には最大の賛辞をお送りしたいと思います。

将来に目を向けますと、ご認識の通り、足元の状況は金融市場が落ち着きを取り戻しつつある一方、世界経済は実質的に景気後退期入りしています。2023年も決して楽な経営環境ではないでしょう。しかし私共が投資する企業は皆、環境変化に揺るぐ事の無い財務基盤を有しておられます。むしろ混乱が深まる時期にこそ、皆さまが魅力的な条件での事業への再投資、買収、自己株買いを行い、長期的な企業価値の向上を加速できるものと信じております。私共の株主としてのフォーカスは長期的な企業価値です。私共は一貫して経営者様と時間軸を共有し、その目線から応援させて頂く方針です。

以上の問題意識に基づき、来年はこれまで以上に積極的に皆さまとの対話・エンゲージメントを行ってまいりたいと思います。過去の対話からご理解いただいているとは存じますが、改めて私共が全ての投資先企業に期待するのは3つ、(1)適切な資本配分、(2)取締役会・経営陣と株主の利益共有強化、(3)多様性と独立性の高い取締役会、です。

より迅速かつ実効的なエンゲージメントを目的として、株主総会において下記の「フレンドリーな」株主提案を前向きに検討している事を今回お伝えさせて頂きます。これによって、来年の総会シーズン前に皆さまと十分な対話の時間を確保することができる事を期待しております。尚、今回は同一内容のレターを投資先の皆様にお送りするため、会社様によっては実情にそぐわない問題提起を含んでいる場合がある事を予めご容赦ください。

テーマ株主提案
適切な資本配分自己株買い、増配、資本構成(現金水準)
取締役会・経営陣と株主の利益共有強化株式保有ガイドラインの導入と開示
多様性と独立性の高い取締役会独立社外取締役を取締役会の過半とする目標を定款に記載。多様性

以上のうち、「適切な資本配分」については個社の状況によりご提案内容も大きく異なるため割愛し、残りの2つについて以下ご説明いたします。

【取締役会・経営陣と株主の利益共有強化】

株主提案:上場企業である限り、取締役の株式保有ガイドラインを制定して開示する旨を定款に記載する

私共は日本の取締役会の最大の弱点が各取締役による株式保有の少なさ、それによる株主目線の欠如にあると考えます。一部のご創業家出身経営者または先進的な企業をのぞき、まだまだ取締役の経済的利益の大半は基本報酬や短期業績に紐づけられており、中長期的な企業価値向上との相関が弱いのが実情です。

勿論コーポレートガバナンスコードや経済産業省のガイドラインをきっかけとして、過半の企業において株式報酬が導入されたことは素晴らしい進展です。しかし、現状の多くは全報酬の2-3割程度をパッシブに受け取っている程度であり、私共が望むほどのオーナーシップを積み上げられているケースは極めて稀の様にお見受けします。これは目指すべきオーナーシップの水準に具体的な目標設定がなされていないためと我々は考えます。

他の先進諸国の現実をお伝えします。欧米においてはほぼすべての主要上場企業において、株主との価値共有に必要と考えられる一定量の株式について一定期間の継続保有を義務付ける(売却も禁止)株式保有ガイドラインが採択されています。数年間の猶予期間を経て、トップマネジメントであれば基本報酬の3-5倍、社外取締役でも報酬の1倍とするケースが大半です。私共は日本企業のマネジメントの皆さまにも、過去の常識にとらわれず、世界水準に劣らないオーナーシップのレベルを目指して頂きたいと願っております。

株式保有が年収の5倍に達した時、皆さまは勤務した時間への対価を受け取る給与(報酬)所得者としてだけではなく、事業が生み出した利益の配分を受け取る企業のオーナーとして考え、行動するでしょう。時には厳しい経営判断も企業価値の観点から行えるようになるでしょう。投資案件の検討もわが身の事として考えるようになるでしょう。また、株価が割安に評価されれば危機感と同時に、より鋭敏にそれを絶好の自己株買いの機会として感じるようになるでしょう。このように取締役が株主と同じ目線に立った上で、喜びも痛みも株主と分かちあう姿こそが、私共に限らずほとんどの外部純粋株主が望んでいる事です。勿論これだけのオーナーシップを持つことはアップサイドのみならず、皆さまの経済的リスクが高まる事も意味します。しかし重責を担うマネジメント・取締役として、この程度のリスクを取れない・コミットできない人材は上場企業の取締役にふさわしいとは言えないでしょう。

日本においては株式保有ガイドラインを実施している会社はごくわずかにとどまります。いち早く株式保有ガイドラインを導入していただくことにより、報酬としてパッシブに受け取るのみならず、適切な期間における購入も含めてもっと具体的なコミットメントを示して頂くことを期待します。

【多様性と独立性の高い取締役会】

株主提案: 上場企業であり続ける限り、女性及び投資家・アナリストとして高い経験とスキルを持つ人材を含む独立社外取締役を取締役会の過半とする目標を定款に記載する。

私共は今日の上場企業経営において取締役会の多様性と独立性が不可欠であると考えます。多様性ある取締役会とはスキル、経験、年齢、国籍、ジェンダーなど幅広い視点から経営判断ができる取締役会を意味し、独立性のある取締役会とは少なくとも過半が独立社外取締役から構成されている取締役会を意味します。この点においても日本企業が過去10年で大きな進化を遂げたことは認識しております。しかし私共は現状に甘んじることなく、より高いスタンダードを目指していくべきと考えております。「多様性」について、求められる要素は企業によっても異なりますが、普遍的または緊急性の高いアジェンダとして「女性及び投資家・アナリストとして高いスキルを持つ人材を含む」ことを今回ご提案させて頂きます。

女性の登用について、私共は経済産業省の「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」における「取締役の中に女性が一人もいない企業においては、取締役としての質の確保を前提としつつ、女性の取締役を選任することを積極的に検討すべき」との記述に全面的に賛同致します。今年の9月、ニューヨーク証券取引所において岸田首相が行ったスピーチにおいて「日本の未来は、女性が経済にもたらす活力に懸かっている」「女性の活躍を阻む障害を一掃する決意」と発言された事は、非常に素晴らしいと考えます。この国際的舞台におけるコミットメントが一日も早く実現されることを期待致します。

つぎに、「アナリストとして高い経験とスキルを持つ人材」の登用は、外部投資家・株主の目線を取締役会にもたらすと同時に、健全なリスクテイクを通じた企業価値向上に資する効果的な手段と考えます。本来、上場企業の取締役会と投資家・株主は企業価値の長期的な向上という同じ目標を共有しながら、不幸にも日本においては両者が対立的な構図でとらえられることも少なくありません。上述の経験・スキルを持つ取締役が取締役会の議論・意思決定に参画することは、健全なリスクテイクと資本配分、そして市場とのより良いコミュニケーションを通じて取締役会と株式市場の関係を本来の建設的なものにするでしょう。しばしば銀行出身者や会計士がスキルマトリックスのファイナンス部分を担うと説明されますが、「健全なリスクテイク」を促す観点からは会計や負債市場の専門性だけでは不十分であり、そこにエクイティ市場の専門家の意義があることをご理解ください。

以上、私が考える皆様へのご提案についてご説明させていただきました。繰り返しになりますが、私共は常に皆さまと企業価値の長期的な向上を目標とした建設的な対話を望んでおります。株主総会における提案においても一方的な権利行使ではなく、十分な対話の上で是非を判断してまいりたいと思います。現在私共は東京に5名のアナリストがおり、いつでも皆さまとの対話に応じられる準備がありますし、米国を拠点とする私自身も機会を頂ければ随時直接皆さまと対話させて頂きたいと望んでおります。私自身は今年2度の日本訪問にとどまりましたが、来年はより積極的に活動したいと思っています。

末筆になりますが、もう3年近くになるパンデミックとの闘いにおいて会社を守りぬいた皆様のご尽力に感謝いたします。引き続き皆さまとその家族のご多幸をお祈りいたします。素晴らしいクリスマスシーズンとニューイヤーをお迎えください。

慈愛の念を込めまして、

James B. Rosenwald III

Co-Founder and Chief Investment Officer

Dalton Investments

免 責 事 項

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