ダルトン、投資先企業の経営陣および取締役に対する書簡を発表

ダルトン・インベストメンツ(以下「ダルトン」)は、投資先企業の経営陣および取締役に対し、コーポレート・ガバナンスへの期待として、(1)東京証券取引所から要請されている「資本コストと株価を意識した経営」に明確にコミットすること、(2) ダルトンが提唱する3つの株主提案(効果的な資本配分、強い利害調整、高い独立性と多様性を備えた取締役会)の実現に向けて引き続き努力すること、の2点について、以下の書簡を公表しました。 ダルトンは、個々の企業の変革の積み重ねが、日本の株式市場と経済の力強い復活につながると確信しています。

令和5年12月吉日

株式会社●●

取締役会 御中

親愛なる投資先の経営者様、取締役の皆様、IRご担当者様、

平素よりお世話になっております。2023年も残すところ1か月となりました。本年は世界経済がパンデミックの制約から本格的な立ち直りを迎えた一方、新たな地政学的諸問題を含む資本市場の新たなリスクが数多く顕在化した年でもありました。良い話だけで総括できる年などありませんが、それでもおかげ様で私共もアセットオーナーのお客様に相応の成果をお返しできた年として締めくくる事が出来そうです。改めまして、事業運営のご尽力及び株主への惜しみない対話の機会に心より感謝申し上げます。

またご案内の通り、2023年は世界が日本株式市場への関心を強めた年でもありました。地政学、金融政策、経済ファンダメンタルズ要因と並んで、東京証券取引所(以下、東証)・経済産業省・金融庁が一体となった資本市場改革への期待の表れと私共は捉えております。

私共のもとにも世界中の投資家から「何が起きているのか」「今回こそ本当の改革なのか」といった問い合わせが多く寄せられ、加えてご自身の目で変革を確かめたいという多くのアセットオーナー様の訪日を多数頂いております。彼らが来日した際、面談にご対応頂いた会社様には重ねて御礼申し上げます。

上場企業及び東証・経済産業省・金融庁との対話を通じて、私共も今回の変革は本物であると感じております。スチュワードシップ、コーポレートガバナンスの両コード制定に始まった日本の資本市場改革は形式面の整備が完了し、本年からいよいよ本格的な実質面の進化が始まっている、というのが私共の考えです。

この変革をより確かなものにする目的から、今回のレターでは二つのお願いを差し上げたいと思います。

  1. 全ての投資先企業の皆様には東証が要請する「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」(以下、東証要請)取り組みへの明確なコミットをお願いいたします。

2.        引き続き、私共の3つの株主提案、「適切な資本配分」「取締役会と株主の利益共有強化」「多様性と独立性の高い取締役会」実現に向けた取り組みをお願いいたします。

東証要請について

東証要請は一部誤解されがちですが、PBR1倍以下の上場企業のみを対象としたものではなく、すべての上場企業にとって有意義なフレームワークです。これにコンプライする企業が一番理解すべきは株価についてのアカウンタビリティが経営側に発生する事です。勿論、従前より株価を意識しない上場企業経営者などいらっしゃらないとは思います。しかし、東証要請における「意識」とは株価の変動や他社比較に一喜一憂するという意味ではありません。市場における株価評価が適切か、適切でなければ何がその要因かを分析する事、そして分析した要因をふまえた解決策を示し、実践する所までがこれからの上場企業経営者・取締役会の責任となることを意味します。

私共の経験に照らせば「経営の責任は業績、株価は市場が決めるもの」というのが多くの日本人経営者・取締役の主流的な考え方であったと言えるでしょう。日本人らしい、潔い美学ではあります。しかし東証要請に取り組む以上、そのような意識とは決別しなければなりません。

東証要請は非常に革新的、かつ上場企業にとっては達成が容易ではない課題ですが、日本株式市場のプレゼンスを高めるためにかくも素晴らしいスタンダードを示して頂き、今なお懸命なフォローアップ活動を続ける東証には最大の敬意を表します。そして、投資先の皆様には是非上場企業のロールモデルとして本要請にコンプライ頂きたいと願っております。

皆様が東証要請に取り組むにあたり、私共は是非皆様の良きパートナーでありたいと考えています。資本市場に軸足のあるテーマですので、これまでの以上に実のあるエンゲージメントができる自負を持っております(既に何社かには具体的なご提案をお持ちしました)。

本件においては皆様と明確に目標を共有し、同じ方向に向かった取り組みができる事を楽しみにしております。

弊社の3提案について

昨年末より継続させて頂いている3提案について、私共は目覚ましい成果を挙げられたと自負しております。勿論これは株主総会における株主提案賛成率の事ではありません。実態として私共のご提案後、多くの会社様において洗練された資本政策の導入・株式保有ガイドラインの導入・多様なバッググラウンドを持つ独立社外取締役の参画が果たされた事が私共にとっての成果です。実際、株主提案に対する会社の公式発表は反対でも、「取締役会で真剣に議論するきっかけになった」「株主総会後も継続的な対話を」というお言葉を多く頂いており、私共も勇気づけられています。私共の提案を真摯にご検討頂き、辛抱強い対話、また決断・行動をとっていただいた事に心から感謝申し上げます。

一方、まだ取り組みの道半ばの件が残された会社様に対しては、四半期毎の対話の度にフォローアップさせて頂いております。本レターもその一環として今一度、下記ご提案をご覧頂き、進捗をご確認頂きたいと存じます。

テーマご 提 案
適切な資本配分資本政策として「適切な財務資産の水準(または資本構成)」、「向こう3~5年間の具体的な資本配分計画」、「ROIC、ROEを含むKPIとその目標値 (KGI)」を定量的に策定・開示・コミット上記資本配分を行う前提として、自社株式の正当な評価額について取締役会としての見解を持つことも必須政策保有株式の縮減、中長期的にはゼロを目指す
取締役会と株主の利益共有強化株式保有ガイドラインを通じて、具体的な利益共有改善の道筋を制定・開示・コミット具体的には取締役は固定報酬の3-5倍の株式を保有する状況を合理的な時間軸で築くことが望ましい
多様性と独立性の高い取締役会少なくとも取締役会の半数を独立社外取締役で構成同時に多様性(女性や投資家)の向上も継続的に取り組む

今回、「適切な資本配分」の中に「政策保有株式の縮減、中長期的にはゼロを目指す」という一文を追加しております。政策保有株式について投資先の皆様とは頻繁に議論の機会を頂いておりますが、私共の結論は例外なく「当事者間の協業の意義は理解できるが、協業のために株式を保有する必然性は認められない」というものです。

通常の事業取引において株式保有の有無が影響を与えることは①アームズ・レングスの原則に反し、かつ②持ち合い当事者である株主とそれ以外の株主の間に利益相反構造を生み出します。

株主資本コストをカバーし得ない政策保有株式は「資本コストを意識した経営」の観点からも企業価値を棄損します。そして政策保有株式比率が高い会社は自己保身のために株主価値を棄損している経営者の会社として投資家から追加的な資本コストをチャージされます。

また、「利益共有強化」について付言したいのが、東証が要請する高いスタンダードの実現に取り組むためには形式を整えるのみならず、達成に向けた強い経済的インセンティブを働かせることが有効、という点です。経営者の皆様が株式保有を着実に増やす道筋を示し(株式保有ガイドライン)、実践頂ければ、本取り組みの成果を皆様自身が経済的に享受できます。経営者・取締役が外部株主と利益を一体化し、企業価値向上の成果をともに享受する事は決して強欲ではなく、多くの株主も期待・歓迎するものです。

本年、私共も変革を推進する東証及び経済産業省・金融庁の皆様と度々お会いし、資本市場改革の成果を最大化する道筋について議論させて頂きました。私共が何より心強く感じるのは、組織の長から実務を担う若手の皆様に至るまで、皆様日本を良くしたいという情熱にあふれておられる事です。

過去、残念ながら多くの海外投資家から頂くフィードバックに「日本の株式市場が期待を裏切り続けてきた」というものがあります。上場企業全体のROEに本質的な変化が見られないのが最大の要因です。

しかし、冒頭に申し上げた通り、私共は過去の改革はいずれも不可欠な資本市場の基盤整備であり、本年からいよいよ実質的な改善を進めるステージが始まったとみています。上場企業サイドにおいても改革という言葉に慣れきってしまい、冷淡な想いをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、その様な認識がもしあれば改めていただきたく存じます。

皆様の東証要請への真摯な取り組みは数年後の企業価値向上と皆様の経済的な成功をもたらし、そして個社の変革の集積が日本の株式市場と経済に力強い活力をもたらすものと信じております。

私共は、皆様の社内の検討加速の一助となる事を企図して、来年の株主総会においても本レターの内容に準じた株主提案の実施を検討しております。皆様には東京の担当者より随時フォローアップさせて頂きます。引き続きよろしくお願いいたします。

James B. Rosenwald III

Co-Founder and Co-Managing Member

Dalton Investments LLC

    (翻訳/編集:ダルトン・アドバイザリー株式会社)